バルフレアはよく女に花を贈る。
どこからか手に入れてきた1輪の花を、やけに気障ったらしい仕草で女に渡す。
女は宝石でも貰ったみたいに喜び、2人でどこかへ行ってしまう。
きっと花なんか贈らなくても女はついていくのに。
なんて無意味なことをするんだろう。
町を出発する時には、バルフレアを見送りに女たちがやってくる。
その中に貰った花を髪に飾って泣いている女がいた。
バルフレアは女をなぐさめはしたけど、髪にさした花には目もくれなかった。
やっぱり花なんか無意味なんだと思った。
崖の天辺にめずらしい花が咲いていた。
あそこまで登るのは大変そうだな…と考えたら、どうしてもその花が欲しくなった。
オレにとって意味ある花のように思えた。
岩肌をよじ登って、花を摘んで、下に降りたら、無意味になった。
しかたないからパンネロに渡すと、顔いっぱいに笑ってえらく喜んだ。
夕方には花も変色して枯れてしまう。
花ですらなくなったそれは、意味も無意味もないただのゴミだ。
それでもパンネロはずいぶん哀しんで、名残惜しそうにしおれた花弁を撫でていた。
「花が枯れるのはあたりまえだろ」
「…うん」
「さっさと捨てちゃえよ」
「…でも」
「持っていてもしょうがないだろ」
「…判ってるよ」
あとになって、バルフレアから「おまえは女心の判らない奴だ」と怒られた。
男が女に花を贈る意味を考えろと。
それなら判っているよとオレは答える。
「無意味さ」
「バルフレアが女に花を贈る時だって、意味なんかないだろ?」
オレの言葉に、バルフレアは苦虫を噛み潰したような顔をした。
それから思いきり頭をはたかれる。
「俺が女に贈る花とおまえがパンネロに贈る花とを同じものにするな」
なんでだ?
だって花は花じゃないか。
おわり (2006.06.03)