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オレたちは昼近くになって、ようやくベッドから抜け出した。のそのそと仕度を整えて、遅い朝食を取りに砂海亭へと出かけていく。
「砂海亭の前にバザーを覗いていかないか?」とバルフレアが云った。
買い出しは済ませてあるし、そもそも食事をした後でも十分間に合う時間だ。
「なんで?」
オレの質問にバルフレアはなにやら複雑な顔になって答えない。まあいいから着いて来いと、さっさと先を急いでしまう。
やがてオレたちは海砂亭の前を通り過ぎ、長い階段を下ってバザーへと辿りついた。
バザーはあいかわらずの賑わいで多くの屋台が立ち並んでいたが、目新しいものは何もなく、急いで買わなくっちゃいけないような交易品もない。
しかしバルフレアには目的の店があるらしく、きょろきょろと辺りを見まわしていた。
「なぁ…いったい…」
呼びかけるオレにかまわず、バルフレアは「あったあった」とバザーの奥へと行ってしまう。立ち止まったのは『果実アメ』に屋台の前だった。
漂ってくる甘い匂いに、オレは懐かしい気持ちでいっぱいになる。
あまい果実を串刺しにして炙り、溶かした砂糖をかけてコーティングした飴菓子。ラバナスタ生まれの子どもはみんな大好きだ。もちろんオレも小さいころ大好物だった。
家族でバザーに出かけたときは、かならず買ってもらっていた。35ギル3本のセットで、レックスが1本にオレが2本。いつだって多いほうを譲ってくれる。
両親がいなくなって特別な日にしか買えなくなり、レックスが死んでからは1度も口にしていない。
バルフレアは35ギルを屋台の店主に払い、並べられた袋のひとつを手にした。中から1本だけ取り出して、あとはオレに差し出してくる。
「おまえは2本…だったよな?」
そう云って少しだけ笑った。
わけも判らないまま受け取ると、バルフレアは背中を向けてしまう。それから果実アメを齧って「なんだこりゃ頭痛がする甘さだな」とボヤきながら行ってしまった。
オレはその後ろ姿をぼんやりと見つめる。
家族でバザーに出かけたときは、かならず買ってもらっていた。35ギル3本のセットで、レックスが1本にオレが2本――…。
パンネロさえ知らない思い出を、どうしてバルフレアが知っているんだろう。
単なる偶然じゃないとしたら…?
おわり (2006.05.24)